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人工衛星を目で追った時代の望遠鏡 ― Tecnar by Swift と TOPCON SATELLITE-SCOPE

机の上に、小さな望遠鏡が 2 台並んでいます。白いほうは「Tecnar by Swift」、黒いほうは「TOPCON SATELLITE-SCOPE」。どちらの名前にも、satellite、人工衛星という言葉が入っています。

作られたのは、おそらく 1950 年代の終わりから 60 年代。人類が初めて人工衛星を打ち上げ、世界中の人がその小さな光を自分の目で探そうとしていた頃の道具です。どちらも ASTROTRIP の商品ではありませんが、こんな望遠鏡があったことを、星の好きな方に知ってもらえたらと思って書いておきます。

Tecnar by Swift 衛星望遠鏡。白い鏡筒の 1 台を机の上に置いた全体

1957 年、空を見張った人たち

1957 年 10 月 4 日、ソ連がスプートニク 1 号を打ち上げました。人類初の人工衛星です。

アメリカのスミソニアン天体物理観測所では、その前から衛星を追いかける準備が進んでいました。天文学者 Fred Whipple が呼びかけた Operation Moonwatch(ムーンウォッチ計画) です。世界中のアマチュア観測者がチームを作り、小さな望遠鏡を南北に並べて空を見張る。衛星が視野を横切ったら、その時刻と位置を書き留めて報告する。追跡用のカメラ網が整うまでのあいだ、衛星の軌道を知る手がかりは、こうして人の目から集められていました。チームはアメリカだけでなく、日本にもありました。

アメリカの天文フォーラム Cloudy Nights には、当時子どもだったという人の思い出が書き込まれています。スプートニクが打ち上がった頃、友だちと外に集まって、頭の上を渡っていく光を眺めた。小さかったけれど、ちゃんと見えた。宇宙時代の驚きに、みんな夢中だった、と。

肉眼で見えていたのは、衛星と一緒に軌道を回っていた大きなロケットの胴体だったとも言われています。それでも、空を渡る光を見上げた記憶は、何十年たっても残るものなのでしょう。

日本の光学メーカーも、この動きに応えました。日本望遠鏡工業会のギャラリーには、五藤光学研究所が作った人工衛星観測用の望遠鏡が紹介されていて、各メーカーがムーンウォッチ計画に呼応して望遠鏡を作った、と書かれています。手元の 2 台も、どちらも日本の工場から生まれた、その時代の衛星望遠鏡です。

白い 1 台 ― Tecnar by Swift 816

2024 年 9 月に、eBay で手に入れた 1 台です。アメリカの Swift 社が「Tecnar by Swift」の名前で売っていた Satellite Telescope(衛星望遠鏡) で、出品名には「816」「6.5 X 30」「JAPAN」とありました。

白い鏡筒の先の黒い筒に、「6.5X, 30」の刻印。6.5 倍、対物 30mm です。倍率を抑えて、空の広い範囲を一度に見るための仕様です。接眼部は鏡筒の横から直角に出ていて、空に向けたまま横から覗けます。

上から見た Tecnar 衛星望遠鏡。高度目盛環と、対物側の「6.5X, 30」

鏡筒の回転軸には、0 から 340 まで数字の振られた目盛環。支柱の側面には小さなコンパスと、手で回せる翼ねじ。根元にはもう一つ、方位の目盛があります。どこを向いているかを数字で読むための仕掛けが、この小さな体にひととおり詰まっています。ハンマートーン塗装の鋳物の台座は、机の上でどっしりと構えています。

コンパスのある側から。コンパスの横に翼ねじ。接眼部と対物のキャップは外して手前に置いた

対物キャップには「JAPAN」の刻印。アメリカのブランドで、作ったのは日本です。

対物キャップの「JAPAN」の刻印。手前は吉田正太郎『望遠鏡発達史』

Cloudy Nights に 2015 年に投稿された 816 の写真には、台座の銘板に「TECNAR by SWIFT 6.5×30 MODEL NO-816」とあり、形は手元の 1 台とそっくりです。

同じフォーラムには、この望遠鏡を大事にしている人たちがいます。2023 年に、ずっと探していた 816 を手に入れた bulletdodger さんは、届いた箱を開けると中の鏡が接着剤から外れてカラカラ鳴っていて、「割れなかったのが奇跡」だったそうです。分解して鏡を磨き、接眼部のグリスを塗り直しながら、「年代のわりに驚くほど状態がいい。コンパスもちゃんと動く!」と書いています。Chuck Hards さんは、Tecnar は赤道儀の形にも据えられて、衛星だけでなく普通の天体望遠鏡としても使える、と感心していました。

アメリカ・フロリダ州の Chiefland Astronomy Heritage Museum にも 816 が展示されていて、宇宙時代の幕開けに「Satellite Tracker」として売られ、ムーンウォッチ計画に参加した市民の観測者が使った種類の機材のひとつ、と紹介されています。解説では口径が 60mm になっていますが、手元の 1 台もフォーラムの 816 も、刻印は 6.5×30。ここは刻印を信じておきます。

説明書にあった、芝生の上の机

Tecnar には、英文 1 枚の説明書が付いていました。816 の持ち主 deepwoods1 さんが Cloudy Nights に写真を載せてくれています。見出しは「Instructions for use of TECNAR Satellite Telescope」。いちばん下に、小さく「Printed in Japan.」。

書き出しがいいのです。

人の手で作られた魅惑的な人工衛星と天体を、あなたの Tecnar 衛星望遠鏡で観察してください。天体を探しながら過ごす楽しくくつろいだ時間は、きっと学びにもなるはずです。

使い方はこうです。木や建物にさえぎられない芝生か屋上に、机と椅子を出す。机を水平にして、疲れずに覗ける位置に望遠鏡を置く。コンパスで対物を北に向けて、目盛を 0 に合わせる。人工衛星がどこを通るかは新聞に大きく載るので、その方位と角度に目盛を合わせて待つ。

夕方、新聞を片手に庭へ机を運び、椅子に腰かけて空を待つ。説明書を読んでいると、そんな光景が浮かんできます。ムーンウォッチ計画のことは、一言も書かれていません。観測チームのためというより、家で衛星を見てみたい人のための望遠鏡だったのかもしれません。

目盛の名前は「Declination Circle(赤緯環)」なのに、鏡筒を真上に向けて 0 にするので、実際に読むのは真上からの角度です。細かいところはおおらかで、それよりも、とにかく空に向けてほしい、という気持ちのほうが伝わってきます。

黒い 1 台 ― TOPCON SATELLITE-SCOPE 5×30

こちらはヤフオクで見つけた 1 台です。黒い板金の台座の前に、銘板がくっきり残っています。

TOPCON SATELLITE-SCOPE 5×30 TOKYO KOGAKU KIKAI K.K.

東京光学機械株式会社、いまのトプコンです。1932 年に生まれ、双眼鏡や測量機、カメラを作ってきた会社で、1989 年に今の社名になりました。測量機や眼科の機器で知られるあのトプコンが、人工衛星を見るための望遠鏡を作っていた。五藤光学研究所と同じように、ムーンウォッチの時代に日本のメーカーが応えた 1 台です。

TOPCON SATELLITE-SCOPE の銘板。台座の前面に「TOPCON SATELLITE-SCOPE 5×30 TOKYO KOGAKU KIKAI K.K.」

Tecnar と並べると、作りがまるで違います。鏡筒は真っすぐで、接眼部が上、対物が下。そして対物の先に、蝶番で角度を変えられる丸い鏡が立っています。空の光をこの鏡で折り返して鏡筒に入れるので、観測者は上から覗き込むだけ。首を反らして真上を見上げなくても、楽な姿勢のまま、長い時間空を見張っていられます。ムーンウォッチの観測でよく使われた、「見下ろして空を見る」作りです。

TOPCON SATELLITE-SCOPE を横から。板金の台座、長穴の腕、つまみねじ、左端に鏡の枠

台座は黒い板金を折り曲げたもので、長穴の開いた 2 本の腕が鏡筒をはさんでいます。つまみねじを緩めて角度を変え、締めて止める。目盛環もコンパスもありません。数字を読むより、決めた方角をじっと見張ることに徹した道具です。倍率は 5 倍と、Tecnar より少し低めです。

対物側。鏡筒の先に、蝶番で角度を変えられる丸い鏡が立つ

2 台を並べて

Tecnar は、新聞で知った方位と角度に目盛を合わせて待ち構える望遠鏡。赤道儀のようにも据えられるので、衛星のいない夜は月や星も楽しめます。

TOPCON は、鏡を使って楽な姿勢のまま、空の一線を見張り続ける望遠鏡。Cloudy Nights の Chuck Hards さんによると、ムーンウォッチの望遠鏡は、子午線を横切る衛星の高さを時刻と一緒に記録するのが実際の使い方だったそうです。日本望遠鏡工業会の解説にある、南北に何台も並べて子午線を通る衛星を観測した、という話とも重なります。

同じ「人工衛星を見る」でも、家で楽しむための形と、観測のための形。作りを見ていると、そんな違いが見えてきます。そしてその 2 つが、どちらも日本の工場から生まれていたのが、なんとも面白いところです。

いまの空には、数えきれないほどの人工衛星が回っています。ISS がいつ頭の上を通るかも、アプリを開けばすぐにわかります。当時の人たちが新聞で待った光を、ずっと気軽に探せるようになりました。晴れた夜にこの 2 台を並べて、ISS を追いかけてみたいと思っています。そのときは、ここに書き足します。

参考にした資料